亀太郎 「先生、原油がマイナスになった日の話は前に聞きました。でも…その日に6.6億ドル(約1,000億円)稼いだ9人組がいたって本当ですか?」

亀美 「本当じゃ。しかも大手ヘッジファンドではない。ロンドン郊外の小さなトレーディング会社の9人じゃよ。」

亀太郎 「9人で1,000億円…?1人あたり100億円以上…?」

亀美 「市場が最も混乱した瞬間に、最も冷静だった者たちの話じゃ。聞くかえ?」

亀太郎 「聞きたいです!」


まず、あの日に何が起きたか

亀美 「2020年4月20日の出来事を簡単に振り返るぞ。」

2020年4月20日 ── 原油マイナス価格の3大原因
  • COVID-19で世界の石油需要が25%蒸発
  • 米国クッシングの貯蔵タンクがほぼ満杯(利用率80%超)
  • WTI 5月限の最終取引日が翌日 → 現物受渡を避けたい投機筋が投げ売り

亀太郎 「先物を持ったまま期日を迎えると、実際にオクラホマ州の倉庫で原油を受け取らないといけないんですよね。」

亀美 「その通り。だから投機筋は”何が何でも売りたい”。しかし買い手がいない。結果、売り手がお金を払って引き取ってもらうという異常事態になった。」

時間帯WTI 5月限状況
$17.73通常オープン
昼過ぎ$10.00一桁台突入、パニック開始
14:08$0.00史上初のゼロ
14:30-$37.63史上最安値

亀美 「5時間で55ドルの下落。まさに地獄絵図じゃった。」


「Essex Boys」とは何者か

亀太郎 「で、その地獄の中で稼いだ9人って?」

亀美Vega Capital Londonという小さなトレーディング会社のグループじゃ。リーダーはPaul “Cuddles” Commins(ポール・“カドルズ”・コミンズ)。」

亀太郎 「カドルズ…?“抱きしめ”って意味ですよね。怖い人なんですか?」

亀美 「あだ名の由来は知らんが、ロンドン東部のエセックス出身者が多いことから、メディアに**“Essex Boys”**と呼ばれるようになったのじゃ。」

Essex Boysの主要メンバー
名前役割利益(推定)
Paul “Cuddles” Comminsリーダー$3,000万(約45億円)
Aristos Demetriouトレーダー$1億超(約150億円)
Elliott Pickeringトレーダー$1億超(約150億円)
Connor Youngerトレーダー$1億超(約150億円)
Christopher Roaseトレーダー$9,000万(約135億円)
George ComminsPaul の息子$800万(約12億円)
他3名トレーダー非公開
合計(9人)約$6.6億(約1,000億円)

亀太郎 「息子まで参加してるんですか…。しかも息子だけで12億円…。」

亀美 「家族経営の延長みたいなものじゃな。ただし、やったことは桁外れじゃった。」


彼らの戦略:何をしたのか

亀太郎 「具体的にどういうトレードをしたんですか?」

亀美 「実はシンプルじゃ。2つのステップしかない。」

ステップ1:$10付近でWTI先物をショート

亀美 「原油価格が$10前後に下落した時点で、彼らは大量のWTI先物を**空売り(ショート)**した。」

亀太郎 「$10でもう十分安いのに、さらに下がると読んだんですか?」

亀美 「じゃ。彼らは貯蔵タンクの状況、5月限の期日、そしてロング勢のパニック具合を分析して、**“ゼロを突き抜ける可能性がある”**と判断したのじゃ。」

ステップ2:TAS契約で決済価格で自動買い戻し

亀美 「ここが鍵じゃ。彼らは**TAS(Trade at Settlement)**という特殊な注文を使った。」

亀太郎 「TAS?初めて聞きました。」

TAS(Trade at Settlement)とは?

その日の最終決済価格(Settlement Price)で自動的に約定する注文のこと。事前に出しておけば、引け値がいくらであろうとその価格で取引が成立する。通常は大口のヘッジ目的で使われる。

亀美 「つまりこういうことじゃ。」

ステップ操作価格
1. ショートWTI先物を売建て約$10
2. TASで買い戻し決済価格で自動買い戻し-$37.63
差額(利益)約$47.63/バレル

亀太郎 「ちょっと待ってください。-$37.63で買い戻すということは…売値$10との差額$47.63が丸々利益?」

亀美 「その通りじゃ。1枚(1,000バレル)あたり**$47,630の利益**。これを何千枚も持っていた。」

亀太郎 「1,000枚持っていたら…4,700万ドル…。それが1人分…。」

亀美 「じゃから9人合計で6.6億ドルになるのじゃ。」


WTI取引量の29.2%を占めた

亀太郎 「でも、9人でそんなに大量のポジションを持てるものなんですか?」

亀美 「それが最も驚くべき点じゃ。あの日、Essex Boysの取引量は**WTI 5月限の全取引量の29.2%**を占めておった。」

2020年4月20日 WTI 5月限の取引シェア
プレイヤー取引シェア
Essex Boys(9人)29.2%
BP(英石油メジャー)それ以下
Glencore(資源大手)それ以下
JPMorgan(米投資銀行)それ以下

亀太郎 「BPやJPモルガンより多いんですか!?9人で!?」

亀美 「じゃ。世界最大級の石油会社や投資銀行を上回る取引量を、ロンドンの小さなオフィスの9人が叩き出した。これが規制当局の目に留まらないわけがない。」


その後:規制当局の調査と裁判

亀太郎 「やっぱり問題になったんですか?」

亀美 「当然じゃ。**CFTC(米国商品先物取引委員会)**が動いた。」

亀美 「問題になったのは主に2つ。」

疑惑1:市場操縦(マーケット・マニピュレーション)

亀美 「9人で取引量の3割を占めるということは、彼ら自身の売りが価格を押し下げた可能性がある。つまり**“自分の売りで価格を下げて、安く買い戻した”**という市場操縦の疑いじゃ。」

疑惑2:ポジション制限違反

亀美 「先物市場には、1つのグループが持てるポジションの上限がある。9人が協調して動いていたなら、グループとしてこの上限を超えていた可能性がある。」

亀太郎 「裁判の結果はどうなったんですか?」

亀美 「2024年時点で訴訟は継続中じゃ。Essex Boys側は”各自が独立した判断でトレードした”と主張しておる。」

訴訟の争点
  • CFTC側:9人は協調して行動し、市場を操縦した
  • Essex Boys側:各自が独立判断。市場の流動性を提供した正当な取引
  • 論点:TAS注文自体は合法。問題は「協調性」と「意図」

亀太郎 「合法と違法の境目が難しいですね…。」

亀美 「じゃからこの事件は”ルールのグレーゾーン”を突いた典型例として、今でも議論されておるのじゃ。」


個人トレーダーが学ぶべき5つの教訓

亀太郎 「僕たち個人トレーダーは、この事件から何を学べますか?」

亀美 「5つある。」

教訓1:先物の限月交代(ロールオーバー)は命取り

亀美 「原油ETFや先物を持っている人は、限月交代日の前後は極めて危険じゃ。この日の暴落も、5月限の最終取引日前日に起きた。」

亀太郎 「XMでOILをトレードする場合も同じですか?」

亀美 「XMのOIL(CFD)は直接的な現物受渡はないが、参照する先物のロールオーバーの影響は受ける。限月交代日のカレンダーは必ず確認するのじゃ。

教訓2:「ありえない」は起きる

亀美 「原油がマイナスになるなど、前日まで誰も想像しなかった。リーマンショック、スイスフランショック、コロナショック…。“ありえない”は5年に1回は起きる。

教訓3:大口は市場を動かせる

亀美 「9人で市場の3割を支配できるということは、個人トレーダーは常に大口の動きに翻弄される側ということじゃ。自分が相場を動かせると思ってはならん。」

教訓4:レバレッジは凶器にもなる

亀太郎 「この日、原油をレバレッジ100倍でロングしていた人は…」

亀美 「**口座残高がマイナスになった者が大量に出た。**XMのゼロカットシステムがなければ、借金を背負っておったじゃろう。」

レバレッジ$20でロング-$37.63で強制決済損失
1倍$20,000分-$37,630-$57,630(投資額の約3倍の損失)
10倍$200,000分-$576,300口座残高を遥かに超える
100倍$2,000,000分-$5,763,000破産レベル

亀太郎 「1倍でも投資額の3倍の損失…。マイナス価格の恐ろしさがわかりました。」

教訓5:プロの土俵で戦っている自覚を持て

亀美 「この話の本質はのう。Essex Boysは特別な情報を持っていたわけではない。貯蔵タンクの状況も、限月交代日も、すべて公開情報じゃった。」

亀太郎 「じゃあ、なぜ彼らだけが稼げたんですか?」

亀美準備と胆力じゃ。彼らは事前にシナリオを描き、リスクを計算し、その通りに実行した。パニックで投げ売りしていたロング勢と正反対の行動を取った。」

亀美 「個人トレーダーに必要なのは、“エセックスボーイズになること”ではない。“エセックスボーイズがいる市場で戦っている”という自覚を持つことじゃ。」


まとめ

亀太郎 「すごい話でした…。でも僕は、1,000億円稼ぐよりまず退場しないことを目標にします。」

亀美 「それが一番賢い判断じゃ。」

この記事のポイント
  • 2020年4月20日、WTI原油先物は-$37.63の史上初マイナス価格を記録
  • Essex Boys(9人)はショート+TAS注文で1日$6.6億(約1,000億円)を獲得
  • 彼らはその日のWTI取引量の29.2%を占め、BPやJPMorganを上回った
  • CFTCが市場操縦の疑いで調査・訴訟中
  • 個人トレーダーはロールオーバーリスクレバレッジ管理を徹底すべし

免責事項:本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。FX・CFD取引にはリスクが伴い、投資元本を超える損失が発生する可能性があります。投資判断はご自身の責任において行ってください。本記事に記載されたEssex Boysに関する情報は、公開報道およびCFTC訴訟資料に基づいています。
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