亀太郎 「先生!ニュースで”有事の円買い”って言ってたんですけど、戦争が起きたら円を買えばいいんですか?」

亀美 「その格言は、半分正しくて半分間違いじゃ。」

亀太郎 「半分…?」

亀美 「“有事の円買い”を無条件に信じると、大損する可能性があるわ。データで検証してみましょう。」


有事のドル円──歴史的データ

亀美 「まず、55年間の主要な”有事”とドル円の動きを整理しよう。」

有事ドル円の動き年間変動率方向
ニクソンショック1971357円→315円-11.94%円高
第一次オイルショック1974280円→301円+7.19%円安
第二次オイルショック1979194円→240円+23.50%円安
プラザ合意1985250円→200円-19.93%円高
湾岸戦争1991135円→124円-7.61%円高
アジア通貨危機1998130円→113円-12.87%円高
9.11テロ2001114円→131円+15.09%円安
リーマンショック2008111円→90円-18.65%円高
東日本大震災201181円→76円-5.20%円高
コロナショック2020108円→103円-5.06%円高
ウクライナ侵攻2022115円→131円+13.96%円安

亀太郎 「あれ…円高になったり円安になったり、バラバラじゃないですか?」

亀美 「そうじゃ。“有事=円高”ではないのじゃ。」


パターン1: 円高になる有事

亀美 「円高になったケースを分析すると、共通点が見えてくるわ。」

ニクソンショック(1971年)──ドルの信認崩壊

亀美 「ドルと金の交換停止は、ドルそのものの価値を直撃した。円が強くなったというより、ドルが弱くなったのじゃ。」

プラザ合意(1985年)──政策的ドル安

亀美 「5カ国が”ドルは高すぎる”と合意して意図的にドルを下げたわ。3年間で250円から121円まで。」

リーマンショック(2008年)──リスクオフの極致

亀美 「これが最も有名な”有事の円買い”じゃな。111円から翌年には84円台まで円高が進んだ。」

亀太郎 「なぜリーマンでは円が買われたんですか?」

亀美 「当時の日本は低金利だったから、世界中の投資家が”円を借りて高金利通貨に投資する”キャリートレードをしていたの。リーマンショックでそれが一気に巻き戻された。つまり”円が安全だから買われた”のではなく、“借りていた円を返した”のが正体よ。」

共通点: 日本に直接的影響 or ドル自体の問題

亀美 「円高になる有事には共通点がある。」

パターンメカニズム
ドルの信認低下ニクソン、プラザドル売り→相対的に円高
リスクオフ(キャリー巻き戻し)リーマン、コロナ円キャリー解消→円買い
日本に直接影響東日本大震災保険金支払い期待→レパトリ→円高

パターン2: 円安になる有事

亀美 「次は、有事なのに円安になったケースじゃ。こちらも見てみよう。」

オイルショック(1974年、1979年)──資源高=円安

亀太郎 「え、オイルショックで円安ですか?」

亀美 「日本は資源輸入国じゃ。原油価格が急騰すれば、日本の貿易赤字が拡大し、ドルの需要が増える。1979年は+23.50%と、55年間で最大の円安になった年じゃ。」

9.11テロ(2001年)──米国一国の問題

亀美 「9.11は米国への攻撃だったけど、ドル円は年間+15.09%の円安になったわ。」

亀太郎 「アメリカが攻撃されたのにドル高?」

亀美 「米国の報復による中東の不安定化→原油高→日本の貿易赤字拡大、という連鎖が働いた。また、米国が大規模な財政出動で景気を刺激したこともドル高要因じゃった。」

ウクライナ侵攻(2022年)──エネルギー危機

亀美 「これが最も重要な最新事例よ。ロシアのウクライナ侵攻でドル円は115円から131円まで円安に振れたわ。年間で+13.96%。」

亀美 「原油価格は一時130ドルを超え、天然ガスも暴騰。日本のエネルギー輸入コストが膨張し、貿易赤字が急拡大した。“有事の円買い”どころか、歴史的な円安になったのじゃ。」

共通点: 資源高を伴う海外の危機

パターンメカニズム
資源価格高騰オイルショック、ウクライナ輸入コスト増→貿易赤字→円安
海外限定の危機9.11日本経済への直接打撃なし→円売り継続
金利差拡大ウクライナ(2022年)米利上げ vs 日本ゼロ金利→円キャリー拡大

”有事の円買い”が通用した時代と終わった時代

亀太郎 「結局、“有事の円買い”って昔の話なんですか?」

亀美 「よい質問じゃ。実は、この格言が成立する条件が変わってきておるのじゃ。」

亀美 「2つの時代に分けて考えるとわかりやすいわ。」

2000年代まで: 円買いが成立しやすかった

条件状況
日本の経常収支大幅黒字
日本の対外純資産世界最大
キャリートレード活発(低金利で円を借りる→リスクオフで巻き戻し)
エネルギー価格比較的安定

2020年代: 円買いが成立しにくい

条件状況
日本の貿易収支赤字(エネルギー輸入増)
日米金利差歴史的に大きい
デジタル赤字GAFAM等への支払い増加
エネルギー価格高止まり

亀美 「日本の貿易構造が変わったのが大きい。“経常黒字で安全通貨”だった円が、エネルギー輸入で赤字を垂れ流す通貨になった。有事で資源高になれば、円は売られる側に回るのじゃ。」


有事の金買い──こちらは一貫している

亀太郎 「じゃあ有事に強い資産って何ですか?」

亀美 「金(ゴールド)じゃ。こちらは”有事の金買い”が一貫して成立しておる。」

亀美 「ドル円が有事で方向がバラバラだったのに対して、金はほぼすべての有事で上昇しているわ。」

有事金の動き
オイルショック急騰
湾岸戦争上昇
9.11テロ上昇
リーマンショック一時下落後に急騰
コロナショック史上最高値更新
ウクライナ侵攻急騰

亀美 「“有事の円買い”ではなく、“有事の金買い”──これが正しい格言じゃ。」


今のイラン情勢はどのパターンか?

亀太郎 「先生、今の中東情勢が心配なんですけど…」

亀美 「では、過去のパターンに当てはめてみよう。」

亀美 「今の状況を整理するとこうなるわ。」

要素現状過去の類似
危機の場所中東(海外)湾岸戦争、ウクライナ
資源価格への影響原油高リスクありオイルショック型
日本への直接的影響限定的9.11型
日米金利差大きいウクライナ(2022年)型
日本の貿易収支赤字基調2020年代の構造

亀美 「中東有事→原油高→日本の輸入コスト増→貿易赤字拡大→円安。これは2022年のウクライナパターンに極めて近い。」

亀美 「つまり、中東情勢の悪化で”有事の円買い”に飛びつくのは危険ということ。資源高を伴う海外危機では、円は売られる側に回る可能性が高いわ。」

亀太郎 「“有事=円買い”で思考停止するのはダメなんですね…」

亀美 「その通り。大事なのは”どんな有事か”を分析すること。日本に直接影響する危機か?資源高を伴うか?金利差はどうか?──これらを判断してからポジションを取るのじゃ。」


まとめ──有事と円の正しい理解

亀美 「では、今日の教訓をまとめよう。」

ポイント内容
1. “有事=円高”は半分ウソ55年間で円高になった有事と円安になった有事は半々
2. 円高パターンドルの信認低下 / キャリー巻き戻し / 日本直接影響
3. 円安パターン資源高を伴う海外危機 / 金利差拡大
4. 2020年代は構造変化貿易赤字・デジタル赤字で円の安全通貨としての地位が低下
5. 有事に強いのは金”有事の金買い”は一貫して成立

亀太郎 「“有事の円買い”じゃなくて、“有事の種類を見極めろ”ってことですね!」

亀美 「その通りじゃ。データは格言の裏側を教えてくれる。思考停止が最大のリスクじゃ。」

亀美 「次回は少し気分を変えて、トレーダーの心理面に切り込むわよ。」


次回:「亀太郎、損切りの恐怖と戦う。」


免責事項: この記事はデータに基づく分析であり、投資助言ではありません。FX取引にはリスクが伴います。投資判断はご自身の責任で行ってください。